残業がある会社では「36協定を出しておけばよい」と考えがちです。しかし、実務では、協定が必要かを確認し、適正な労働者代表を選び、上限を守った内容で締結・届出を行い、その後も実際の労働時間を管理する必要があります。
特に注意したいのは、月45時間・年360時間、年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内という数字が、すべて同じ範囲を数えているわけではないことです。法定休日労働を含む上限と含まない上限を分けて理解しなければなりません。
この記事では、中小企業で初めて36協定を担当する人事向けに、必要性の確認から、代表者選出、締結、届出、周知、労働時間管理、更新までを順番に整理します。
本記事は、2026年9月30日時点の厚生労働省、労働局、e-Gov等の公的資料を確認して作成しています。制度や様式は変更されることがあるため、実際の届出前には厚生労働省または所轄労働基準監督署の最新情報も確認してください。
36協定が必要かを最初に確認する
36協定の正式名称は「時間外・休日労働に関する協定」です。労働基準法36条に定められているため、一般に「サブロク協定」と呼ばれます。
労働基準法は、原則として、休憩時間を除いて1日8時間・1週40時間を法定労働時間としています。また、少なくとも毎週1日または4週間を通じて4日の法定休日を与えなければなりません。
会社が労働者に、法定労働時間を超える時間外労働や、法定休日の労働をさせる場合には、事業場ごとに36協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出る必要があります。会社規模や残業人数の多さではなく、法定時間外労働または法定休日労働をさせるかどうかで判断します。
時間外労働と休日労働は分けて考える
この記事でいう「時間外労働」は、会社の所定労働時間ではなく、法定労働時間を超える労働です。たとえば所定労働時間が1日7時間の会社で8時間働いた場合、所定時間外は1時間ありますが、原則として法定時間外労働は発生していません。
「休日労働」は、労働基準法上の法定休日に働くことです。土日休みの会社で土曜日が会社所定休日、日曜日が法定休日なら、土曜日の出勤が直ちに法定休日労働になるとは限りません。ただし、その週の労働時間によっては法定時間外労働が発生します。
自社の就業規則、勤務カレンダー、法定休日の定めを確認し、どの時間を集計するかを先に整理してください。
締結と届出の両方が必要
36協定は、使用者と労働者側の締結当事者が合意して締結します。そのうえで、所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
労基署への届出は、協定内容の「許可」や「承認」を受ける手続ではありません。しかし、労使で協定しただけでも足りません。届出前に法定時間外労働や法定休日労働をさせることはできないため、協定の開始日より前に締結と届出を終えておきます。
36協定だけでは残業命令の根拠は完成しない
36協定は、協定の範囲内で時間外・休日労働をさせた場合に、労働基準法32条や35条違反とならないための手続です。36協定を届け出たからといって、協定上限まで自由に残業させられるわけではありません。
個々の労働者に時間外労働を命じるには、36協定とは別に、労働契約や合理的な就業規則等の根拠も必要です。就業規則や労働契約の基本は、中小企業の就業規則の作成・見直し入門で確認してください。
時間外労働の上限を数字ごとに理解する
一般的な事業・業務に適用される上限は次のとおりです。
| 場面 | 上限 | 法定休日労働を含むか |
|---|---|---|
| 原則の1か月 | 45時間 | 含まない |
| 原則の1年 | 360時間 | 含まない |
| 特別条項の1年 | 720時間以内 | 含まない |
| 特別条項の単月 | 100時間未満 | 含む |
| 特別条項の2〜6か月平均 | 80時間以内 | 含む |
| 月45時間を超えられる回数 | 1年に6か月以内 | 月45時間は時間外労働のみで判定 |
原則は月45時間・年360時間
通常の36協定で定められる時間外労働の限度時間は、原則として月45時間・年360時間です。これは目安ではなく、法律上の限度時間です。
この月45時間と年360時間には、法定休日労働の時間を含めません。もっとも、36協定には休日労働をさせることができる日数や時間帯等も定め、時間外労働と休日労働の双方を管理します。
1年単位の変形労働時間制は月42時間・年320時間
対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制が適用される労働者は、原則の限度時間が月42時間・年320時間になります。
「1年単位の変形労働時間制を使っているから、繁忙期はいくらでも長く働かせられる」という制度ではありません。変形労働時間制そのものが適正に導入・運用されているかも別に確認してください。
毎月確認するのは協定時間だけではない
特別条項を使わない月も含め、実際の時間外労働と法定休日労働の合計は、単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内にしなければなりません。
たとえば当月の合計が80時間以内でも、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均のいずれかが80時間を超えれば上限違反です。人事は個人別に、当月だけでなく移動平均も確認できる管理表や勤怠システムを用意する必要があります。
特別条項が必要かを判断する
通常の限度時間を超える可能性がある場合は、特別条項付き36協定を検討します。ただし、特別条項は「忙しい会社なら長く残業させられる仕組み」ではありません。
臨時的な特別の事情を具体的に定める
特別条項を設けられるのは、通常予見できない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合です。
「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」のように、いつでも使える曖昧な理由は認められません。たとえば、大規模な製品トラブルへの対応、通常を大幅に超える受注の集中、決算業務など、自社で想定する事情をできる限り具体的に定めます。
特別条項でも超えられない上限
特別条項を設けても、一般的な事業・業務では次の上限をすべて守ります。
- 時間外労働は年720時間以内。法定休日労働は含めない
- 時間外労働と法定休日労働の合計は単月100時間未満
- 同じ合計は2〜6か月の各平均で80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは1年に6か月以内
「100時間未満」は100時間ちょうどを含みません。一方、「80時間以内」は80時間ちょうどを含みます。年720時間には法定休日労働を含めませんが、単月100時間未満と複数月平均80時間以内には含めます。
健康福祉確保措置を決めて実行する
特別条項では、限度時間を超えて働く労働者の健康と福祉を確保するための措置を協定します。指針は、医師による面接指導、深夜業の回数制限、勤務間インターバル、代償休日・特別休暇、健康診断、連続休暇の取得促進、相談窓口、配置転換、産業医等による助言・指導などを例示しています。
様式へ書くだけではなく、対象者に実施し、実施状況を記録してください。2026年9月からの監督指導でも、この実施状況が重点的な確認事項になっています。
過半数代表者を適正に選ぶ
36協定の締結当事者は、会社が都合のよい社員を指名して決めることはできません。中小企業では過半数労働組合がない会社も多いため、過半数代表者の選出手続が特に重要です。
過半数労働組合がある場合
事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合と締結します。単に社内に労働組合があるだけでは足りず、事業場の労働者の過半数を組織しているかを確認します。
過半数労働組合がない場合
過半数労働組合がない場合は、事業場の労働者の過半数を代表する者を選びます。選出時は「36協定を締結する労働者代表を選ぶ」ことを全労働者へ明らかにし、投票、挙手、話合い等の民主的な手続で選出します。
メールや社内システムを使う場合も、候補者、選出目的、回答方法、結果を記録し、労働者の過半数の支持を確認できるようにしておくと実務上安全です。
使用者指名・管理監督者・不利益取扱いに注意
次の選び方は避けてください。
- 社長や人事部長が代表者を指名する
- 親睦会の代表や最年長者を自動的に代表者にする
- 「異議がなければこの人」とだけ伝え、意思確認をしない
- 労働基準法41条2号の管理監督者を代表者にする
使用者は、選出に必要な配慮を行う必要があります。また、過半数代表者になったことや正当な行為をしたことを理由に、解雇、降格、嫌がらせなどの不利益取扱いをしてはいけません。
協定内容を決める
協定案は、前年の実績をそのまま写すのではなく、実際の勤怠データと今後の業務計画を確認して作ります。
少なくとも、次の項目を整理してください。
- 対象となる業務の種類と労働者数
- 時間外・休日労働が必要となる具体的な事由
- 1日、1か月、1年の延長時間
- 休日労働をさせることができる日数と時間帯
- 対象期間、起算日、有効期間
- 特別条項を設ける場合の具体的事情、上限、手続、割増賃金率、健康福祉確保措置
法定上限まで書くことが目的ではありません。過去の最大値、通常月の実績、繁忙期、欠員、受注計画を確認し、通常予見される範囲で、必要最小限の時間を定めます。
最新様式で労基署へ届け出る
一般企業の様式
一般的な事業・業務では、原則の限度時間内なら「様式第9号」、特別条項を設けるなら「様式第9号の2」を使用します。様式第9号の2は通常部分と特別条項部分の2枚を一組として提出します。
建設事業の災害復旧・復興、自動車運転の業務、医師、新技術・新商品等の研究開発業務には別の様式があります。業種名だけで決めず、実際に対象となる事業・業務と労働者を確認してください。
36協定書と36協定届を別に作成する場合、届出書は協定書の内容を正しく転記します。届出様式自体を協定書として兼用する場合は、労使双方の合意が明らかになるよう、署名または記名押印等の方法で締結する必要があります。「届出書の押印廃止」と「協定締結の合意」を混同しないでください。
労働保険番号・法人番号
2024年4月1日から、36協定届の1枚目右上に労働保険番号と法人番号を記載します。古い社内ファイルを複製すると欄がない場合があるため、必ず最新様式をダウンロードしてください。
持参・郵送・電子申請
36協定届は、所轄労働基準監督署への持参、郵送、e-Gov電子申請ができます。郵送の場合は、控えの返送方法を所轄署の案内で確認します。電子申請では、画面の案内と最新の注意事項に従ってください。
届出先は原則として事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。会社全体で1件ではなく、事業場単位で締結・届出する点に注意します。
本社一括届出
一定の条件を満たす36協定届は、e-Govによる本社一括届出が可能です。ただし、本社が1つの協定で全事業場を一方的にまとめる制度ではありません。各事業場で適正に締結したうえで、共通項目、事業場ごとに異なる項目、締結当事者などの条件を確認し、一括届出事業場一覧のCSV等を添付します。
対象事業場や協定内容が本社一括の条件に合うか迷う場合は、e-Govの最新FAQまたは労働基準監督署へ確認してください。
届出後に周知し労働時間を管理する
36協定を届け出たら、労働者へ周知します。周知方法は、各作業場の見やすい場所への掲示・備付け、書面交付、労働者が常時確認できる社内システムへの掲載などです。人事ファイルに保管するだけでは、周知になりません。
その後は、実際の労働時間を個人別に管理します。最低限、次の数字を毎月確認してください。
- 36協定で定めた1日・1か月・1年の時間
- 月45時間を超えた回数
- 年720時間までの累計
- 時間外労働と法定休日労働の単月合計
- 同じ合計の2〜6か月平均
- 特別条項を使った月の手続と健康福祉確保措置の実施状況
月末の集計で初めて超過に気づく運用では遅いため、月中に警告ラインを設けます。たとえば月30時間、年240時間、月45時間超の5回目など、自社の勤務状況に合わせて事前警告を設定し、本人と上司へ業務調整を促します。これは法定値ではなく、上限超過を防ぐための実務上の提案です。
また、客観的な記録を基礎に始業・終業時刻を把握し、サービス残業や持ち帰り業務が集計から抜けないようにします。長時間労働者への面接指導など、安全衛生上の措置も別途確認してください。
2024年から適用が広がった業務と特例
2024年4月1日から、それまで上限規制の適用が猶予されていた事業・業務にも規制が広がりました。一般企業の人事担当者は、該当者がいないかを確認し、該当する場合は専用の公式資料を使ってください。
建設事業
建設事業には原則として一般則が適用されます。災害時の復旧・復興事業では、時間外労働と休日労働の合計について、単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内の規制は適用されません。一方、時間外労働の年720時間以内と、月45時間超が年6か月以内という上限は守る必要があります。
自動車運転の業務
自動車運転の業務では、特別条項付き36協定の時間外労働の年上限は960時間です。単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、月45時間超は年6か月まで、という規制は適用されません。ただし、拘束時間や休息期間等を定める改善基準告示も守る必要があります。
医師
診療に従事する勤務医には、医師独自の上限水準、追加的健康確保措置、専用の36協定届があります。医療機関の指定や医師の水準によって取扱いが異なるため、一般企業向けの数字だけで判断せず、厚生労働省「医師の働き方改革」と医師用36協定の最新資料を確認してください。
その他の取扱い
鹿児島県・沖縄県の砂糖製造業は、2024年4月から一般則がすべて適用されています。新技術・新商品・新役務の研究開発業務は上限規制の適用除外ですが、対象範囲は専門的・科学的な研究開発業務に限定され、専用様式や健康確保措置があります。自社判断で広く「研究職」と扱わないでください。
2026年9月の監督指導見直し
厚生労働省は2026年9月1日から、36協定等に関する相談支援を拡充し、労働基準監督署の監督指導の運用を見直しました。
変更点は、時間外・休日労働の時間数だけに着目して月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、36協定で定めた健康・福祉確保措置の実施状況を重点的に確認し、事業場の状況に応じて指導するというものです。働き方改革推進支援センターには専門相談窓口が設けられ、訪問支援も行われます。
これは、時間外労働の法的上限を緩和する法改正ではありません。月45時間・年360時間、特別条項の年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、月45時間超は年6か月以内という一般則は変わっていません。重大・悪質な事案には引き続き厳正に対応し、過重労働による健康障害のおそれが高い場合も必要な指導が行われます。
36協定の更新までを年間業務にする
36協定は有効期間を定めます。対象期間は1年間であり、実務上も有効期間を1年として毎年見直す運用が基本です。
更新は、次の順で進めると漏れを防げます。
- 有効期限の2〜3か月前に、前年の時間外・休日労働実績を確認する
- 月45時間超の回数、年累計、複数月平均、特別条項の利用状況を確認する
- 翌年の繁忙期、人員計画、業務改善策を確認する
- 協定案を作り、過半数代表者を適正に選出する
- 労使で協議し、協定を締結する
- 有効期間開始前に所轄労基署へ届け出る
- 労働者へ周知し、管理表や勤怠システムの起算日を更新する
有効期限直前の作業にならないよう、人事の年間カレンダーへ「代表者選出」「協議」「届出」「周知」「管理設定更新」を分けて登録してください。
よくある質問
従業員が1人でも36協定は必要ですか
法定時間外労働または法定休日労働をさせるなら、会社規模にかかわらず必要です。過半数労働組合がなければ、適正な手続で過半数代表者を選出します。
36協定を出し忘れたまま残業させていました
届出前の時間外・休日労働が、後から協定を届け出ることで遡って適法になるわけではありません。直ちに事実関係と労働時間を確認し、違法状態を止め、所轄労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士等へ相談してください。
月45時間以内なら休日労働はいくらでもできますか
できません。休日労働の日数と時間は36協定で定め、できる限り少なくする必要があります。また、時間外労働と法定休日労働の合計について、単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内を守らなければなりません。
特別条項を毎月使えますか
一般則では、時間外労働が月45時間を超えられるのは1年について6か月以内です。さらに、臨時的な特別の事情が実際に生じ、協定で定めた手続を行う必要があります。恒常的な人手不足を前提に毎月使う制度ではありません。
36協定に違反した場合の罰則はありますか
36協定を締結・届出せずに違法な時間外・休日労働をさせた場合や、法律上の上限を超えて働かせた場合は、労働基準法違反として6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となる可能性があります。協定違反が分かったら、実労働時間を確認し、直ちに是正してください。
届出前に確認したい公式資料
36協定の様式や行政運用は変更されることがあります。実際の締結・届出では、次の公式情報から最新資料を確認してください。
- 厚生労働省「時間外労働の上限規制」
- 厚生労働省「働き方改革関連法」の資料・36協定届様式
- 厚生労働省「労働基準法等の届出等の電子申請」
- 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
- 厚生労働省「医師の36協定」
- 厚生労働省「2026年の相談・支援及び監督指導の見直し」
まとめ
36協定の実務は、届出書を1枚作る仕事ではありません。
まず、自社で法定時間外労働・法定休日労働が必要かを確認します。次に、実績と業務計画をもとに必要最小限の協定内容を考え、過半数代表者を適正に選出して締結します。開始前に届け出て労働者へ周知し、届出後は、協定時間、月45時間超の回数、年累計、休日労働を含む単月・複数月平均を継続して管理します。
最初の一歩として、現在の36協定の有効期限、過半数代表者の選出記録、使用している様式、時間外・休日労働の当年累計を確認してください。4点のどれかが分からなければ、更新を待たずに社内記録と勤怠データを整理しましょう。


