中小企業の就業規則の作成・見直し入門|労働協約・36協定との違い

職場で資料とパソコンを見ながら話し合う3人の従業員 人事労務

「前任者から就業規則を引き継いだが、いつ見直したものか分からない」「残業について書いてあれば、36協定は不要なのだろうか」。ひとりで人事を担当していると、規程は手元にあっても、何から確認すればよいか迷うことがあります。

最初に確認するのは、就業規則の最新版、適用される従業員、届出の要否、社員が読める場所です。そのうえで、労働契約・労働協約・労使協定と食い違いがないかを点検します。

この記事では、就業規則の作成・見直しを軸に、法律上の手続きと実務上の進め方を整理します。手順や点検表のうち、当サイト独自の提案は「ぼっち人事LABの実務提案」として区別しています。

最初に確認することは「人数・規程・周知」の3つ

まず、次の資料を集めてください。資料をそろえる順番は、ぼっち人事LABの実務提案です。

確認すること手元にそろえるもの分からないときの次の行動
事業場ごとの従業員数雇用形態を含む在籍者一覧正社員だけで数えていないか確認する
どの規程が最新版か就業規則、賃金規程、育児・介護休業規程、改定履歴社内保管先や顧問社労士に確認する
誰に適用されるか正社員・パート等の規程と労働条件通知書適用対象の抜けや条文の食い違いを洗い出す
届出と意見聴取の履歴届出控え、意見書、代表者選出の記録必要な手続きを行ったか事実確認する
社員が読めるか共有フォルダー、社内掲示、配付資料一般社員の権限で最新版を開けるか試す

「あるはず」で点検を終えず、実物を一つずつ確かめます。規程が見つからないときは、すぐにひな形へ置き換えるのではなく、現在の労働条件や過去の合意を確認しましょう。

就業規則・労働協約・36協定は役割が違う

似た名称でも、作成する当事者や法律上の役割が異なります。36協定などを説明するときは、一般に用いられる「労使協定」という名称で整理すると確認しやすくなります。

種類主な役割確認する相手・資料
労働関連法令労働条件の最低基準や、契約・労使関係のルールを定める対象制度の法律・省令・公的解説
就業規則職場共通の労働条件や服務規律を定める会社が作成。作成・変更時の意見聴取などを確認
労働契約個々の従業員と会社の労働条件を合意する雇用契約書、労働条件通知書、個別の合意
労働協約労働組合と会社側が労働条件等を取り決める締結した組合、協約の内容、適用範囲
労使協定各法令が定める事項について労使で取り決める36協定など。制度ごとに当事者・届出要否を確認

労働協約は、従業員代表との書類一般を指す言葉ではない

労働協約は、労働組合と使用者またはその団体との取り決めです。労働組合法第14条は、書面に作成し、両当事者が署名または記名押印することを効力発生の要件としています。

就業規則は、その事業場に適用される労働協約に反することができません。また、労働協約の待遇基準に違反する労働契約の部分は無効となり、協約の基準によります。誰が協約の適用対象なのかを先に確認することが大切です。一定の要件で非組合員にも適用される場合があるため、一律に「組合員だけ」と決めつけないようにします。

根拠:労働組合法第14・16・17条(厚生労働省)、労働基準法第92条(厚生労働省)

36協定は、就業規則の残業条項で代用できない

法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働を行わせる場合、原則として、事前に36協定を締結し、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。就業規則の作成義務がない10人未満の事業場でも、この確認は必要です。

締結相手は、その事業場の過半数労働組合、なければ適正に選ばれた過半数代表者です。就業規則に「業務上必要な場合は残業を命じる」と書くだけでは代用できません。逆に、36協定だけで残業命令の根拠がすべて整うわけでもなく、労働契約や就業規則等の根拠も必要です。

根拠:厚生労働省「労働時間の基本的ルール」

ぼっち人事LABの実務提案として、36協定は「締結相手」「有効期間」「対象業務」「延長時間」「届出控え」を一緒に点検します。上限規制の特例や業務ごとの扱いもあるため、数字だけを他社の協定から転記しないでください。

就業規則は何人から必要? 事業場単位で確認する

常時10人以上なら、作成・届出が必要

労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則の作成・届出が必要です。変更した場合も届出の対象になります。

人数は原則として、会社全体ではなく事業場単位で確認します。パート・アルバイトも含まれます。シフト上、同時に出勤する人数だけを数えるのではありません。本店・支店等の独立性などで判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署へ確認しましょう。

根拠:広島労働局「就業規則 ポイント1・2」

10人未満でも、労働条件を曖昧にしない

常時10人未満であれば、労働基準法第89条による就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、労働条件の明示など別の義務までなくなるわけではありません。

労働局は、トラブルを防ぐ観点から10人未満でも就業規則の作成を勧めています。ぼっち人事LABでも、採用時の説明が担当者によって変わる、休暇の扱いを毎回社長に聞く、といった状況なら、共通ルールの文書化を提案します。法定の義務と、運用を整えるための提案を分けて判断してください。

作成・変更は、内容確認から周知まで進める

1.実際の労働条件と規程を照合する

必ず記載する事項には、始業・終業時刻、休憩、休日・休暇、賃金、退職などがあります。退職には解雇の事由も含まれます。退職金や賞与、制裁など、制度を定める場合に記載が必要となる事項もあります。

根拠:厚生労働省「人を雇うときのルール」、労働基準法第89条

ぼっち人事LABの実務提案は、変更箇所について「今の条文/実際の運用/変更案/対象者への影響」を並べることです。たとえば、就業規則の終業時刻と雇用契約書の記載が異なるなら、どちらかを機械的に直さず、合意内容と経緯を確認します。

ひな形は、厚生労働省のモデル就業規則を参考にできます。2026年9月13日の確認時点では令和7年12月版が掲載されています。規程例には任意の制度も含まれるため、載っている制度をすべて導入する義務があるわけではありません。

2.労働者側の意見を聴く

作成・変更に当たっては、事業場の過半数労働組合、なければ過半数代表者の意見を聴きます。代表者を会社が一方的に指名したり、親睦会の代表を自動的に充てたりする方法は認められません。

就業規則への意見書を提出する代表を選ぶことを明らかにし、投票・挙手などの手続きを取ります。代表者は、労働基準法上の監督または管理の地位にある者でないことなどの要件も確認します。

根拠:広島労働局「就業規則 ポイント7・8」

意見聴取は、同意を得ることと同じではありません。しかし、意見書があれば、どのような不利益変更も有効になるという意味ではありません。

3.不利益変更は、届出とは別に有効性を確認する

賃金の減額、手当の廃止、休日の削減などは、従業員に不利益となる可能性があります。労働契約法第9条では、合意なく就業規則を変更して労働条件を不利益に変えることを原則として認めていません。

同法第10条により変更が認められる場合も、周知に加え、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などに照らした合理性が問題になります。

労基署への届出が受理されたことと、個々の労働条件の変更が有効であることは別問題です。影響の大きい変更は、実施を決める前に社労士や弁護士へ相談し、必要性と影響、説明・協議の経緯を整理しましょう。

根拠:厚生労働省「労働条件の変更」、労働契約法第9・10条

4.必要な届出を行い、社員が読める状態にする

届出義務のある事業場では、就業規則に労働者側の意見書を添付して所轄の労働基準監督署長へ届け出ます。就業規則の周知も必要です。

周知方法には、見やすい場所への常時掲示・備付け、書面の交付、社員がいつでも確認できる電子的な方法などがあります。社長のパソコンだけに保存する、担当者に頼まないと見られない、といった状態で終えないようにします。

根拠:厚生労働省「就業規則はありますか?周知していますか?」

ぼっち人事LABの実務提案として、施行日・変更点・閲覧場所・質問窓口を一緒に案内してください。短時間勤務者や休業中の社員などにも情報が届く方法を考え、説明会の開催だけで周知を終わらせないことが大切です。

社内説明を担当する人の育成や、説明の練習方法も整えたい場合は、社内講師育成のガイドを参考にしてください。

労働組合から連絡が来たときの初動

就業規則の確認と、労働組合からの団体交渉の申入れへの対応は分けて考えます。労働組合法第7条は、正当な理由のない団体交渉拒否や、組合加入・正当な組合活動を理由とする不利益な取扱いなどを禁止しています。

根拠:労働組合法第7条(厚生労働省)

ぼっち人事LABの実務提案として、申入れを受けたら次の順に整理します。

  1. 申入書、到着日、連絡先、要求事項、希望日時を記録する。
  2. 経営者と共有し、会社側の窓口・判断責任者を決める。
  3. 関係する労働契約、就業規則、勤怠・賃金等の事実を確認する。
  4. 応答や交渉対応を弁護士等へ相談し、放置せず日程・議題を調整する。

過半数組合であるかどうかは、36協定の締結相手を決めるときの要件です。それをそのまま「過半数でない組合とは団体交渉しなくてよい」という判断に流用しないでください。

見直し後に使う実務チェックリスト

以下は、法律上の要件を漏れなく網羅するものではなく、ぼっち人事LABが提案する日常点検の入口です。

  • 最新版の規程と施行日が分かる。
  • 正社員・パートなど、対象者ごとの適用規程が分かる。
  • 雇用契約書や労働条件通知書との食い違いを確認した。
  • 労働協約がある場合、適用範囲と関係条文を確認した。
  • 過半数代表者の選出目的・方法と意見聴取の経緯が分かる。
  • 必要な届出の控えを確認できる。
  • 社員が最新版をいつでも読める。
  • 36協定の有効期間と実際の時間外労働を照合できる。
  • 法改正や働き方の変更を確認する担当・時期を決めている。

法令改正は、就業規則本体だけでなく、賃金規程や育児・介護休業規程、労働条件通知書などにも影響します。「モデルの版が新しいから大丈夫」と判断せず、変更のある制度の施行日と自社への適用を確認します。

よくある質問

従業員が就業規則に署名すれば、周知は不要ですか?

署名を集めることだけで、閲覧できる環境が不要になるわけではありません。規程を社員へ交付する、いつでも読める場所に備え付けるなど、内容を確認できる状態にします。署名の有無と、不利益変更への有効な合意の有無も同一視しないでください。

就業規則より有利な個別契約は無効になりますか?

一律に無効とはいえません。労働契約法第7条ただし書と第12条を踏まえて、就業規則の基準を下回らない個別合意などを確認します。「就業規則が常に優先する」とだけ覚えず、法令・労働協約も含めて適用関係を見てください。

根拠:労働契約法第7・12・13条(厚生労働省)

ひな形をそのまま提出してもよいですか?

自社の勤務時間、賃金制度、休暇、適用対象と合っているかを確認してください。ひな形に合わせて実態を見ないまま規程を置き換えると、実施できない制度や、意図しない労働条件の変更を含めてしまうおそれがあります。

今日の一歩は、最新版と閲覧場所を確かめること

まず就業規則と関連規程の最新版を集め、一般社員がどこから読めるかを確認しましょう。次に、人数要件、適用対象、労働契約・労働協約との整合、36協定の期限を点検します。

不利益変更や団体交渉など、一人で結論を出しにくい問題は、事実と論点を整理して専門家へつなぎます。人事担当者の役割は、すべての法律を暗記することよりも、確認すべき資料と相談すべき場面を見分けることです。

※本記事は一般的な確認手順を扱います。個別の適用・有効性は、契約内容や事業場の状況等によって異なります。法令・公的資料確認日:2026年9月13日。

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