社内講師の育成は何から始める?中小企業向けの手順・研修計画・評価方法

中小企業の社内講師育成:講師選び・育成計画・教材・評価の進め方 人事労務

「仕事に詳しい社員に講師を頼んだけれど、何を準備してもらえばよいのかわからない」。社内研修を任された人事担当者には、こんな悩みがあるのではないでしょうか。

社内講師の育成は、教える業務を一つに絞り、到達目標・教材・練習・実施後の確認をセットで用意するところから始められます。人前で話す技術だけを学んでも、受講者が仕事で使えるようになったかは確かめられません。

この記事では、相談先や準備時間が限られる中小企業の人事担当者に向けて、講師の選び方から初回研修、その後の改善までを整理します。人事がすべての専門知識を教える必要はありません。現場の責任者と講師に役割を分け、小さな研修を一緒につくりましょう。

以下の手順・期間・記入例は、取り組みを具体化するための実務上の提案です。標準期間や、実在企業の成功実績を示すものではありません。

社内講師育成とは?まず「教えられる状態」を決める

社内講師とOJT担当者の役割を整理する

社内講師は、自社の知識や仕事の進め方を社員に教える役割です。集合研修やオンライン研修で、複数の社員に共通の内容を伝える場面があります。

一方、OJTは、実際の仕事を通じて知識や技能を身につける育成方法です。OJT担当者は、職場での実践を見守り、必要な助言や確認を行います。同じ社員が両方を担うこともありますが、研修を実施する仕事と、現場で習得状況を確認する仕事は分けて決めておくと、役割が抜け落ちません。

たとえば「社内システムの申請方法」を教えるなら、講師は基本操作を説明し、受講者に練習してもらいます。その後、現場の担当者が実際の申請時に迷う点を確認します。講師だけで最後まで抱える設計にしないことが大切です。

育成のゴールを、講師と受講者の両方から考える

「わかりやすく話せる講師を増やす」だけでは、育成の完了を判断しにくくなります。次のように、確認できる行動まで落とし込みましょう。

  • 講師の目標:申請の手順を示し、受講者の練習を見て、誤りを具体的に指摘できる。
  • 受講者の目標:練習用の申請を作成し、不備がある場合の修正先を説明できる。

講師が説明し終えたことと、受講者ができるようになったことは別です。教材を作る前に、受講者に何をしてもらって確かめるかを決めておきます。

講師を選ぶ前に、人事が整える三つのこと

現場の困りごとから、最初の研修テーマを一つ選ぶ

最初から全社員向けの大きな育成制度を作ろうとせず、現場で繰り返し起きている困りごとを一つ選びます。

現場の責任者には、「新人がどこで止まるか」「何を何度も説明しているか」「誰がいないと仕事が進まないか」を聞いてみてください。研修で解決できる問題なのかも一緒に確認します。手順書が古い、担当分担が曖昧、必要な権限がない、といった問題なら、研修の前に仕事の仕組みを直す必要があります。

テーマは「事務処理全般」より「経費申請の差戻しを自分で修正する」のように絞ると、教材と練習を準備しやすくなります。

人事・講師・現場の責任者で分担する

小規模な会社でも、担当範囲を言葉にして共有しましょう。

担当主に受け持つこと
人事目的の整理、日程・受講者の調整、教材のひな形、記録の管理
社内講師業務内容の整理、説明と演習の準備、研修の実施
現場の責任者内容の正確性の確認、業務調整、研修後に実践する機会の確保

兼任する場合も、「誰が最終確認するか」は決めておきます。人事が専門分野の正しさまで一人で判断する必要はありません。

登壇時間だけでなく、準備と振り返りの時間を確保する

講師の負担には、登壇のほかに教材作成、練習、質問対応、改訂があります。研修の依頼時には、それらを含めて上司と業務量を調整します。

最初の打ち合わせで、「準備に使える時間」「既存資料を使えるか」「資料の確認者」「研修後の問い合わせ先」を決めましょう。予算を比べるときも、外部への支払額だけでなく、社内で必要になる時間を見積もります。

社内講師の選び方と、身につけてもらう力

実務の経験に加えて、手順を言葉にできるかを見る

候補者は、対象業務を正確に理解していることを前提に、次の点から検討します。

  • 作業の手順だけでなく、「なぜそうするか」を説明できる。
  • 初心者がつまずいたときに、どこが難しいのかを聞ける。
  • 自分のやり方と、会社として決めた手順を区別できる。
  • わからないことを持ち帰り、確認して回答できる。
  • 教材の見直しに協力でき、上司と準備時間を調整できる。

話すことに慣れていない候補者には、最初から長時間の研修を任せる必要はありません。短い説明を受け持ってもらい、人事が進行を補助する方法もあります。

「説明する・練習してもらう・確かめる」を練習する

講師向けの練習では、次の三つを一組にします。

  1. 説明する:目的と完成形を示し、手順を順番に伝える。
  2. 練習してもらう:受講者自身に作業や判断をしてもらう。
  3. 確かめる:結果や途中の行動を見て、できた点と修正点を伝える。

「質問はありますか」だけでは理解度を判断できません。「このケースなら、どこを確認しますか」「次の手順を実際にやってみてください」と、受講者の考え方や行動が見える問いを用意します。

指導の学び方を検討する際には、公的な講座の内容も参考になります。たとえば、ポリテクセンター関東のOJTトレーナー育成コースでは、育成目的、現状把握、計画、進捗管理・効果測定、演習などを扱っています。これは生産現場の技能伝承を対象にした講座の一例であり、すべての社内講師に必要な資格や共通カリキュラムを定めたものではありません。JEED「技能伝承のための部下・後輩指導育成」

初回研修までの育成手順と、4週間の計画例

最初に「教える内容」と「合格の目安」をそろえる

教材に載せる項目は、現場の責任者と確認して決めます。講師の経験をそのまま並べるのではなく、受講者が担当する仕事から逆算します。

業務の到達目標を言葉にしにくいときは、厚生労働省の「職業能力評価基準」が参考になります。仕事に必要な知識・技術・技能・職務行動が、業種や職種・職務ごとに整理されており、自社に合わせて調整して活用することが案内されています。対象業務に近い項目を探し、自社で確認する行動に置き換えましょう。厚生労働省「職業能力評価基準」

たとえば、「問い合わせに適切に対応する」なら、「用件と連絡先を確認し、自分で回答できない内容を所定の担当者へ引き継げる」と具体化します。合格の目安は、研修後に初めて決めるのではなく、教材作成前に共有します。

4週間で小さな研修を試す場合の進め方

次の表は、対象業務を理解している社員が、短時間の研修を初めて担当する場合の計画例です。4週間は推奨される標準期間でも、習得を保証する期間でもありません。 内容の難しさ、候補者の経験、準備時間に応じて調整してください。

時期実施すること次へ進むための確認
1週目テーマ・対象者・到達目標・分担を決める現場の責任者と講師が、教える範囲に合意している
2週目説明資料・演習・確認項目を作る内容が現行の手順と合い、演習の答えが確認できる
3週目模擬研修を行い、教材と進行を修正する説明の抜け、時間超過、判断が分かれる点を直している
4週目少人数で初回研修を実施する受講者の実施結果と、現場での確認予定を残している

準備が整わなければ、日程のために無理に登壇させず、範囲を減らす、共同講師にする、日程を見直す、といった方法を選びます。

模擬研修では、受講者役に実際に動いてもらう

模擬研修には、説明内容を確認できる人と、初心者の視点で聞ける人に協力してもらいます。

最初は、研修の一部分だけを実施しても構いません。説明の後に受講者役が作業し、「どこで止まったか」「何を見れば次へ進めたか」を確かめます。

振り返りは、人格や話し方の好みではなく、観察した行動を基に伝えます。「説明がわかりにくい」ではなく、「保存ボタンの位置が示されず、受講者役が探していた。画面に印を付けて説明しよう」のように、修正箇所を具体化してください。

教材は「説明資料・演習・確認表」をそろえる

説明資料には、手順と判断の分かれ道を載せる

スライドの枚数を増やすよりも、研修後に受講者が迷う箇所を探します。基本の流れに加え、間違いやすい点、例外が起きたときの相談先、完成した状態を載せましょう。

説明用の資料と、仕事中に参照する手順書は、役割が違います。研修中には見やすい画面を使い、研修後には必要な手順を探せる資料を渡す、と使い分けられます。既存の手順書があれば、それを基に説明と演習を用意します。

演習と確認表は、到達目標に対応させる

申請操作を教える研修なら、用語を答えるクイズだけで終えず、練習用の申請を作成してもらいます。判断を教える研修なら、条件の異なる例を用意し、判断理由も聞きます。

確認表には、少なくとも次の項目を入れておくと、次回の指導につなげられます。

確認項目記録する内容
到達目標受講者が何をできるようになるか
実施結果どの作業・判断を確認したか
支援の有無自力でできたか、助言があればできたか
つまずいた点手順・知識・判断のどこで止まったか
次の対応再説明、追加練習、手順書の修正など

教材には更新日と確認者を入れ、内容を直す担当者も決めます。古い資料を各自が使い続けないよう、参照する保存先をそろえておきましょう。

効果測定は、満足度と「仕事でできたこと」を分ける

研修直後は、理解と実施結果を確認する

「説明は聞きやすかったか」「練習時間は足りたか」といった感想は、研修の改善材料です。ただし、満足度が高いことだけで業務を習得したとは判断できません。

研修直後には、演習の結果を確認します。正解・不正解だけでなく、助言の必要な箇所を残すと、次の支援が決まります。

講師の評価も、受講者の人気投票にしないことが大切です。目標に沿った説明、練習機会、結果の確認、わからない質問への対応を振り返り、次回に直す点を選びます。

研修後は、現場で使う機会と確認日を決める

研修終了時に、現場の責任者と「いつ実践するか」「誰が何を見るか」を決めます。たとえば、研修後1〜2週間を目安に確認する計画なら、その間に対象業務を経験できるかを確かめます。これは確認時期の例であり、実務機会がなければ日程を調整します。

実践できなかった場合は、能力不足と決めつけず、業務を担当する機会、必要な権限、手順書の使いやすさも確認します。研修の問題と職場環境の問題を分けて考えましょう。

小さな人数では、割合だけで成果を判断しない

受講者が少ないと、一人の結果で割合が大きく動きます。「達成率」だけでなく、「誰がどの業務を、どの程度の支援でできたか」を残してください。

ミスや差戻しの件数を研修前後で比べる場合も、処理件数、業務の難しさ、担当者の変化を一緒に見ます。システム改修や手順変更が同時にあったなら、改善を研修だけの成果とは断定できません。

想定例:経費申請を教える社内講師を育てる

以下は進め方を具体化するための想定例です。実在する会社の実績ではありません。

新人から経費申請の同じ質問を受けることが多く、人事と経理担当者で短い研修を作ることにしました。最初の対象は、通常の交通費申請に絞ります。

経理担当者を講師とし、人事は日程と演習用の資料を準備します。経理の責任者は、説明内容と社内ルールの整合を確認します。

受講者の目標は、「練習用データで交通費申請を作成し、差戻し理由に沿って修正できること」。講師は操作を実演し、受講者は架空の出張情報を使って入力します。個人の実際の申請データを教材にする必要はありません。

模擬研修で「経路の選び方がわからない」という反応があれば、判断例を追加します。初回研修後は、実際の申請時にどこで迷ったかを経理担当者が確認し、手順書を直します。

この例で大切なのは、講師の説明練習だけで終わらせず、業務の範囲・練習・現場での確認までをつなぐことです。効果を報告するときは、実際に記録した結果だけを使います。

社内だけでは難しい場合は、外部の支援を組み合わせる

業務には詳しくても指導経験がない場合は、外部で教え方を学び、社内では自社業務の教材を作る方法があります。担当者を一人に決められない場合は、専門部分を現場が受け持ち、人事が進行する共同講師も選択肢です。

公的な相談先として、JEEDの生産性向上人材育成支援センターがあります。東京支部の案内では、企業の課題に合わせて内容を設定するオーダーコースや、一人から参加できるオープンコースなどが紹介されています。地域・年度・コースで条件が異なるため、希望する内容や人数で利用できるか、近隣の窓口に確認してください。JEED「生産性向上支援訓練の実施」

相談するときは、「講師を育てたい」だけでなく、教える業務、受講者、現在の困りごと、社内で確保できる準備時間を伝えると、必要な支援を整理しやすくなります。

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全講座一覧

社内講師育成でよくある質問

ベテラン社員なら、そのまま講師を任せてよいですか?

実務経験は大切ですが、初心者に伝える順序や練習の作り方は、別に準備が必要です。短い模擬研修で説明と演習を試し、必要な支援を確認してから任せましょう。

何か月あれば育成できますか?

対象業務の難しさ、候補者の実務経験、研修の規模、準備時間によって変わります。一律の期間を置くより、「内容を確認できた」「模擬研修の修正が済んだ」など、登壇前に満たす条件を決めてください。

人事に専門知識がなくても進められますか?

人事は目的や段取り、記録の整理を受け持ち、専門的な内容は現場の責任者に確認してもらえます。確認者を決められないテーマは、範囲を狭めるか、外部の支援を検討します。

教材や動画を作れば、講師育成は終わりですか?

教材の完成は一つの工程です。受講者が使ってみて迷う点を確認し、講師の説明と教材を更新していきます。動画を使う場合も、質問先と実践を確認する担当者を決めておきましょう。

まずは一つの業務で、初回研修の準備を始める

最初に決めるのは、大きな研修制度よりも、現場で繰り返し困っている業務です。その業務について、教える範囲、受講者の到達目標、講師、内容の確認者、準備時間を書き出してみてください。

そのうえで、説明資料と小さな演習を作り、模擬研修で試します。研修後に誰が実践を確認するかまで決めておけば、人事と講師が一人で抱え込むことを防ぎやすくなります。

社員が複数の業務を担えるようにする取り組みへ広げたい場合は、ジョブローテーションとクロストレーニングの活用法も参考にしてください。

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