社員のキャリアデザインをどう支援する?Will・Can・Mustの面談・シート記入例

社員と人事担当者がキャリア面談を行い、Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(会社の期待)を整理する図 人材育成

「社員に将来の希望を聞いても、なかなか話が進まない」「会社が任せたい仕事と、本人の希望が合わない」。キャリア面談で、こうした悩みを抱えていませんか。

社員のキャリアデザインを支えるときは、本人が大切にしたいこと、現在できること、会社が期待する役割を分けて整理すると、次に話し合うことが見えてきます。その整理に使えるのが、Will・Can・Mustです。

本記事では、中小企業の人事担当者に向けて、3つの考え方とシートの書き方、面談から次の行動につなげる手順を紹介します。最初から立派な将来像や全社制度を作る必要はありません。まずは一人の社員と、次に試す経験を一つ決めるところから始めましょう。

社員のキャリアデザインとWill・Can・Mustの関係

キャリアデザインは、本人が働く方向を考え、見直していくこと

本記事ではキャリアデザインを、これまでの経験や価値観を振り返り、これからどのような仕事・働き方を目指すかを考え、経験に応じて見直していくことと整理します。昇進や異動の計画だけを指すものではありません。

専門性を深める、今の仕事の質を高める、後輩を支援するなど、方向は人によって異なります。本人が考える方向と、会社で得られる経験や期待される役割を対話でつなぐことが、人事と上司の支援になります。

採用・育成・評価・配置との全体的なつながりは、中小企業のタレントマネジメント入門で整理しています。本記事では、その中の「社員本人と、これからの経験を相談する場面」を扱います。

Will・Can・Mustは、希望・能力・役割を分けて話すための枠組み

項目本記事での整理面談で確かめること
Will大切にしたいこと、仕事を通じて実現したいこと続けたい経験、関心のある仕事、目指したい働き方
Can現在の強みやできること、これから補いたい課題実際にできた仕事、その条件、支援が必要な部分
Must会社が期待する役割、担当業務で求める成果何を、いつまでに、どの範囲・水準で任せたいか

この表は、社員との面談に使うための本サイトの整理です。リクルートスタッフィングのWCM制度説明でも、本人の価値観や実現したいこと、強みや課題、会社の要望や職務上の役割を、本人と上司が対話ですり合わせる運用が紹介されています。

企業による運用例であり、どの会社にも同じ周期・様式で実施を求めるものではありません。3つを記入しただけで、意欲や生産性が必ず高まるともいえません。認識の違いを見つけ、仕事や支援の具体的な相談に使うことを目指します。

Mustは、会社が期待する役割として具体化する

「もっと成長してほしい」を、任せたい仕事に置き換える

Mustが「主体性を持つ」「リーダーになる」だけでは、本人は何を求められているか判断しにくくなります。上司は、その役割が必要な理由と、具体的に任せたい仕事を説明しましょう。

たとえば「後輩を育ててほしい」なら、「次の受注処理で、新人が入力した内容を確認し、判断が難しい案件を責任者へ相談できる状態を目指してほしい」とします。本人に任せる範囲、最終判断をする人、使える時間も合わせて確認します。

Mustは、上司の要望をすべて積み上げる欄ではありません。複数の期待があるときは、優先順位を決め、現在の仕事との両立が可能かを確かめます。人員や権限が不足している問題まで、本人の成長課題に置き換えないようにします。

家庭や健康などの事情は、働き方の条件として別に扱う

家庭の事情、健康上の配慮、働ける時間や場所などは、キャリアを考えるうえで大切な条件です。本記事の社員面談では、これらをMustの業務目標と混ぜず、「働き方で配慮・調整が必要な条件」として扱います。

「家族のことを詳しく話してください」と一律に聞くより、「今回の経験を進めるにあたり、時間や進め方で相談したいことはありますか」と、仕事に必要な範囲から確認します。記録にも、私生活の詳しい経緯より、合意した業務上の調整を残す方法を検討しましょう。

休業制度や健康相談などの対応が必要になった場合は、担当窓口へつなぎ、キャリアシートだけで処理を済ませないようにします。

キャリア面談の前に、人事・上司・本人が準備すること

目的、評価との関係、記録を読む人を先に伝える

面談の案内では、何のために話すのか、記録を誰が何に使うのかを伝えます。育成の相談と人事評価の関係が曖昧なままでは、本人は会社に都合のよい答えを書こうとするかもしれません。

評価と同じ時期に実施する場合も、希望を話す部分、業務上の目標を確認する部分、処遇を判断する部分の関係を説明します。評価に使う内容があるのに「一切評価に関係しない」と案内したり、実際には共有する記録を「誰にも見せない」と約束したりしないことが大切です。

次のように、自社の運用に合わせて説明します。

今後経験したいことと、次に任せたい役割を相談します。希望を書いたことで異動や昇進が決まるものではありません。面談後は、合意した行動と会社が用意する支援を記録し、本人・直属上司・育成支援を担当する人事で確認します。ほかの人への共有が必要になった場合は、目的と範囲を確認します。

これは案内の想定例です。実際の閲覧権限や社内ルールに合わせて修正してください。

本人は経験を、上司は期待する役割を持ち寄る

本人には、最近やりがいを感じた仕事、うまくできた仕事、困った仕事を一つずつ考えてもらいます。将来の希望がまだなくても、書ける部分からで構いません。

上司は、次の期間に任せたい役割、その理由、現在できていることの具体例、提供できる経験や支援を準備します。人事は、面談の進行例と記録欄を用意し、上司だけでは決められない研修・配置などの確認先を整理します。

経験や学習歴の棚卸しを丁寧に行いたい場合は、厚生労働省のマイジョブ・カード「在職者の方へ」も参考になります。職務経歴や免許・資格、学習歴を振り返り、今後のキャリアプランを考える流れが案内されています。WCMシートとジョブ・カードは同じ様式ではありません。

Will・Can・Mustシートの書き方と記入例

抽象的な言葉に、仕事の場面を添える

Willは「管理職になる」のような肩書だけでなく、どのような仕事に関わりたいかを書きます。「今の仕事を続けたい」なら、何を続け、どこを深めたいかを聞きましょう。

Canは「コミュニケーションが得意」で終わらせず、誰に何を説明できたかなど、経験を添えます。一人でできることと、支援を受けてできることも分けてください。自己評価と上司の見方が違う場合は、点数の平均を取る前に、どの場面を見ているかを確認します。

Mustは、上司が会社の期待を説明し、本人の理解や懸念を確かめながら具体化します。本人だけに「会社の期待を考えて書いて」と任せきりにしないようにしましょう。

営業事務の社員を想定したシート記入例

以下は、本サイトが作成した架空の記入例です。実在企業の成功事例や、公式の指定様式ではありません。自社で使う場合は、社員名・面談日・対象期間を付け、各欄の質問を使って書き換えてください。

記入する項目・問い記入例
Will:今後どんな仕事に関わりたいか問い合わせに答えるだけでなく、受注時の行き違いを減らす仕事に関わりたい。まずは今の担当の専門性を深めたい
Can:何が、どの条件でできたか通常の受注入力と不備の確認は一人でできる。例外案件は先輩に相談している。先月、よくある問い合わせを整理したメモを作った
Canの課題:何の経験が足りないか問い合わせを分類し、改善案として関係者に説明する経験はまだない
Must:会社は何を任せたいか次の1か月、担当内の受注問い合わせを分類し、確認し直す場面が多い項目を一つ選び、案内文の改善案を直属上司に出す。顧客へ出す文面の決定は責任者が行う
働き方の条件:何の調整が必要か残業を前提にせず勤務時間内に行う。繁忙日の電話受付は上司が別担当と調整する
次に試す行動:本人は何をするか個人情報を除いた問い合わせ分類メモと、案内文の案を一つ作る
会社の支援:誰が何を用意するか上司が分類の観点を一緒に確認し、毎週30分の作業時間と、先輩に相談する機会を確保する
振り返り:いつ、何を確認するか翌月の面談で、改善案を説明できたか、相談先を使えたか、通常業務に無理がなかったかを確認する

この例では、Willの「行き違いを減らす」、Canの「通常処理と問い合わせ整理」、Mustの「改善案の提出」を一つの経験につなげています。仕事の追加だけで終わらず、会社が用意する時間と支援も記録するのがポイントです。

「1か月」「毎週30分」はこの想定例の設定です。一律の適正期間や必要時間を示すものではありません。実際の業務周期と現場の余力に合わせて決めます。

面談では、3つの認識を合わせて次の経験を一つ決める

1.Willを聞き、まだ決まっていない部分も残す

最初は「5年後どうなりたいですか」だけでなく、最近の仕事から聞きます。

最近の仕事で、もう少し関わってみたいと思った場面はありますか。今の担当の中で、続けたいことや変えてみたいことでも構いません。

希望が出てこなければ、その場で結論を求めず、気になった仕事を次の面談までに一つ記録してもらう方法もあります。将来像が未定であることを、意欲不足と決めつけないようにします。

2.Canを仕事の事実で確認し、Mustの理由と範囲を伝える

本人の経験を聞いたうえで、上司が見ている強みや課題を具体的に伝えます。

問い合わせの整理メモは、確認するときに役立ちました。一方、改善案を関係者に説明する経験はまだ少ないので、今回は案を一つ作るところから試してみませんか。顧客への案内を決める責任者は別に置きます。

本人には、経験したいこととのつながりだけでなく、負担や分からない点も聞きます。合意できていない項目を、面談者の判断だけで「本人了承」と記録しないようにしてください。

3.ずれがあるときは、本人の努力と会社の調整を分ける

希望と役割が合わないときは、すぐに説得へ進まず、どこが違うかを確認します。

  • Willがまだ曖昧な場合:関心のある仕事の見学や、先輩に話を聞く機会を検討する。
  • 経験が足りない場合:任せる範囲を狭め、相談相手を付けて試す。
  • 会社に希望する役割がない場合:現在用意できる経験と、現時点では約束できないことを説明する。
  • 業務量や権限に無理がある場合:既存業務の配分、支援者、時期を会社側で見直す。

すべてを一度に一致させる必要はありません。合意できる行動、会社が確認して返答する事項、今回は保留する事項を分けて残します。異動や昇進は、面談者に決定権がなければ約束せず、確認先と返答時期を伝えましょう。

4.次の行動と支援、確認日を読み合わせる

面談の最後には、「本人がすること」「会社が用意すること」「まだ決まっていないこと」「次に確認する日」を読み合わせます。

次の行動は、研修の受講に限りません。仕事の一部を試す、担当者に話を聞く、成果物を作って説明するなど、希望と課題に合う経験を選びます。

担当を替える経験や、今の担当を続けながらほかの仕事を学ぶ方法を検討する場合は、ジョブローテーションとクロストレーニングの違い・選び方を参照してください。本記事では「何のために経験するか」を決め、具体的な訓練の設計は関連記事につなぎます。

面談後は、支援を実行できたかも振り返る

本人の行動だけでなく、経験の機会と負担を確かめる

次の面談では、「目標を達成したか」に加え、試す機会があったか、約束した支援が届いたか、通常業務に無理がなかったかを確認します。

実行できなかった場合も、本人の意欲だけで説明せず、経験不足、機会不足、上司の調整未実施、業務量の多さなどを分けます。やってみて関心が変わったなら、その理由を聞き、Willや次の行動を見直します。前回の記録を消して結論だけ差し替えるより、何が変わったかを残すと次の相談に使えます。

厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」特設サイトでも、役割や必要な能力の明確化、目標の共有、時間の確保、実践・評価、リーダーへの支援が整理されています。本記事のシートや面談順序は、そのまま公的な指定様式・手順になっているものではありません。

個別面談だけで難しいときは、支援の体制を相談する

上司との面談では話しにくい、仕事の方向性を専門家と整理したいといった場合は、キャリアコンサルタントなどへの相談機会を検討します。依頼するときは、相談内容の扱いと、会社に共有する情報の範囲も確認しましょう。

継続的な仕組みを考える際は、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック」の説明が参考になります。キャリアコンサルティング面談と研修などを組み合わせ、社員の主体的なキャリア形成を支援する取り組みです。通常の上司面談を一度行うことと同じ意味ではありません。

まとめ|シートを埋めるより、次の経験と会社の支援を決める

社員のキャリアデザインを支える第一歩は、本人の希望、現在の経験・能力、会社が期待する役割を分けて話すことです。Mustを具体的な業務として説明し、家庭や健康などの条件も配慮したうえで、無理なく試せる経験を探します。

まずは一人の社員について、Will・Can・Mustを書き出し、面談で認識の違いを確かめてみてください。最後に、本人の行動と会社の支援、確認日を一つずつ決めれば、次の面談で振り返る材料になります。

参考資料

※資料確認日:2026年11月1日。本文のシート、質問・案内・記入例、面談の進め方、記録・振り返りの方法は、本サイトの実務提案です。実在企業の成果や運営者の実体験として掲載したものではありません。

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